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最新プレスリリース情報

・新規がん免疫療法の治療開発について(2024.2)

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今回、研究グループは MHC クラス I の量を制御する NLRC5*3 という制御因子の量 を大幅に増加し、MHC クラス I の発現を増加させる新技術「TRED-I システム」を開発しました。

研究グループは、がん細胞では NLRC5 遺伝子がメチル化という修飾を受けることで発現できなく なり、結果として MHC クラス I の発現低下を引き起こしていることに注目しました。TRED-I シス テムは NLRC5 遺伝子のみをターゲットにして、メチル化修飾の正常化と遺伝子発現を誘導可能にし たシステムです。この導入により、MHC クラス I の発現は増加し、細胞傷害性 T 細胞ががん抗原を 認識してがん細胞を攻撃するようになります。動物実験において、TRED-I システムによるがん治療 効果が認められた上、免疫チェックポイント阻害剤*4 との併用の治療有用性も確認されました。特記 すべきこととして、TRED-I システムは免疫活性化を通して、このシステムを導入したがん原発巣か ら離れたがんに対しても治療効果を示すため、転移したがんに対する有効な治療法としての応用が 期待されます。本研究における技術開発は、今までとは全く異なる原理を用いた新たなアプローチ によるがん免疫療法を可能にし、将来の様々ながん種に対する治療への応用が期待されます。

なお、本研究成果は、2024 年 2 月 1 日(木)公開の The Proceedings of the National Academy of Sciences 誌に掲載されました。

​ソース:日経新聞、Yahoo、Yahoo JAPAN等

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・獲得免疫系の新規制御因子の発見(2023.6)

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人間の免疫系は複数の免疫細胞からなり、感染症や癌から身を守っています。その中でも、他の免疫細胞に指令を出して、抗体を作らせたり、細菌を食べさせたり、癌細胞攻撃させたりする司令塔役の免疫細胞をヘルパーT細胞*1と言います。ヘルパーT細胞は、病原体や癌由来の抗原に反応し、その抗原に対して特異的な免疫反応(獲得免疫)を引き起こします。ヘルパーT細胞が抗原を見つけ出せる状態にするにはMHCクラスII*2という分子が必要です。樹状細胞などの抗原を提示する能力がある免疫細胞は、体の様々な部位に存在しており、抗原を見つけると一旦細胞内に取り込み、MHCクラスIIと結合させ、ヘルパーT細胞が認識できる状態にしてから、ヘルパーT細胞に提示します。免疫細胞がMHCクラスIIを作るためには、CIITA*3という分子が必要なことが知られていましたが、CIITAの量をコントロールするメカニズムについては未知のままでした。

本研究グループは、今回、CIITAの制御因子の発見に成功しました。この新しい因子FBXO11はCIITAの量が過剰にならないよう調節しています。FBXO11はCIITAに結合すると、CIITAを分解する他の因子を呼び寄せて、CIITAの分解を引き起こします。これにより、過剰なMHCクラスIIの発生を防ぐことが出来ます。さらにFBXO11が少ない癌の患者さんでは、予後が良いことが分かりました。ヘルパーT細胞が過剰に活性化すると、本来攻撃すべきではない自分の体も攻撃してしまいます。今回新たな制御因子が発見されたことで、MHCクラスIIを適量に整える新しい治療法の開発が期待されます。また、癌患者の予後とFBXO11の量との相関関係が解析された事により新たな癌バイオマーカーの開発も期待されます。

なお、本研究成果は、日本時間2023年6月6日(火)午前4時公開のThe Proceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載されました。

・新型コロナウイルスの免疫逃避メカニズムの解明(2021.11)

自然界には数多くのウイルスが存在します。しかし、その中で深刻な感染症を引き起こすものはごく少数です。ヒトやその他の生き物は、ウイルスに対する免疫系を持っていて、多くのウイルスは病気を起こす事なく無力化されます。ただし、SARS-CoV-2のような感染症を引き起こすウイルスは、多かれ少なかれ、免疫系から逃れる手段を持っているために、感染して宿主の身体の中で増えることができます。

​ヒトの免疫系はウイルス等の病原体から身を守るために、複数の手段を組み合わせた、何層もの防御機構からなっています。例えば代表的なものでは、抗体が十分量あると、細胞に感染する前にウイルスは抗体に捕捉されて無力化されてしまいます。また、たとえ、細胞に感染してしまっても、全ての細胞には自然免疫という免疫機構があり、ウイルス共々感染細胞が自殺したり、周辺の細胞にウイルス感染に対して戦う準備をするようにインターフェロンという物質を使って知らせたりします。これらの機構が突破されると、ウイルスはいよいよ細胞の中で増え始めます。これに対応し、ウイルスを排除するのに活躍する免疫細胞を細胞障害性T細胞と言います。細胞障害性T細胞は感染した細胞の表面に出てきたウイルス抗原を見つけると、感染細胞を破壊し、ウイルスの増殖を止めてしまいます。ウイルス抗原を見つけるためには、抗原と一緒になって感染細胞の表面に出てくるMHCクラスIという分子が必須です。このMHCクラスIによる細胞障害性T細胞の活性化はウイルス防御には極めて大切なものです。

​SARS-CoV-2ワクチンを接種後何ヶ月も経って抗体の量が減っても重症化を防ぐ効果が長く続くのは、細胞障害性T細胞のおかげと言われています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において、MHCクラスIによる細胞障害性T細胞の活性化が正常に起こるかどうかについては詳細な研究がありませんでした。私たちのグループはCOVID-19の患者の喉と気管支の細胞において、MHCクラスIの量が感染時にどのように変化するかを調べました。多くのウイルス感染では免疫応答としてMHCクラスIの量が増えますが、SARS-CoV-2感染患者ではMHCクラスIの量が増えないことがわかりました。この原因について解析を続けたところ、MHCクラスIを増やすために必要な免疫分子NLRC5の量と機能が、SARS-CoV-2によって抑制されていることがわかりました。研究グループは、NLRC5の量を増やすために必要なシグナル伝達経路がウイルスよって抑制されていること、そして、NLRC5の機能そのものもウイルスによって抑制されていることを明らかにしました。ウイルス遺伝子を解析した結果、特定のSARS-CoV-2遺伝子がこの抑制を行なっていることがわかりました。

​研究成果はこちら。論文はNature Communicationsに掲載されました。(他、讀賣新聞、北海道新聞、Yahoo! News Japan、EurekAlert(米国)、Drug Target Review (米国)、米国のABC、CBSテレビネットワークなどに掲載されました。)

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ソース:読売新聞

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ソース:米国KLTVテレビニュース

ソース:東京新聞

ソース:Texas A&M University 

・免疫チェックポイント阻害薬の治療予測方法の開発(2021.2)

免疫チェックポイント阻害剤はヒトの免疫系を活性化する事により、癌細胞を駆除するという画期的な癌治療薬です。抗PD-1阻害剤(日本名オプジーボ)、抗CTLA-4阻害剤(日本名ヤーボイ)の開発に成功した京都大学の本庶佑教授と米国MDアンダーソン癌センターのジェームズ・アリソン教授は2019年のノーベル医学賞を受賞しました。免疫チェックポイント阻害剤は皮膚にできる癌の一種である悪性黒色腫で効果が確認された後、数多くの種類の癌へその適応を拡大しつつあります。

 

しかしながら、解決されねばならない問題も多く残っています。第一に、免疫チェックポイント阻害剤は非常に高価な治療薬です。アメリカにおいては日本円にして5千万円近くが免疫チェクポイント阻害剤を用いた治療に必要となるため、富裕層のみしか治療を受けることができない事態となっています。日本においては、健康保険と高額医療費支給制度のおかけで希望する癌患者の多くが治療を受けることが出来るようになりました。しかしながら、そのしわ寄せとして、その分の高額医療費は日本の健康保険制度を圧迫する要因になっています。第二に、副作用の問題です。免疫チェックポイント阻害剤による治療では、免疫関連有害事象と呼ばれる副作用が単独使用でおよそ患者の4分の1、抗PD-1阻害剤、抗CTLA-4阻害剤の2者併用ではおよそ半分の患者に起こります。皮膚、腸、肺、肝臓、脾臓、心臓といった様々な臓器において、自己免疫疾患といって、自分の臓器を自分の免疫細胞が攻撃してしまう現象が起こり得ます。免疫チェックポイント阻害剤の本質が免疫活性を引き起こすことにある以上、これらはどうしても避けられない副作用ですが、おこる臓器や程度によっては命に関わる重篤な症状になる事もあり、薬剤を使って折角活性化させた免疫系を別の薬剤で反対に抑え込む必要が生じたりします。第三に、必ずしも全ての患者で治療効果が認められる訳ではありません。もっとも治療効果が期待される悪性黒色腫という皮膚癌に対して抗PD-1阻害剤を単独で使用した場合、治療効果が認められる患者は全体の20〜30%にすぎません。

 

副作用の頻度の高さと高額な治療費を考えると、治療前に効果を予測し、治療効果の可能性がある癌患者のみが免疫チェックポイント阻害剤による治療を受ける事が理想的です。この治療予測の重要性については早くから認知されており、各国で治療予測の指標となるような予測因子(バイオマーカー)の開発が進められてきました。最も分かりやすいバイオマーカーは免疫チェックポイント阻害剤が標的としているPD-1やCTLA-4あるいは類似のPD-L1、PD-L2といった阻害分子そのものです。阻害する相手がいなければ、阻害薬は効果を発揮しようがないので、これらはいいバイオマーカーです。これらに関しては多くの研究がなされ、実際臨床上でも使われてきましたが、信頼度は当初期待されていたほど高くはなく、これらを測定するだけでは治療効果を予測するのは困難です。また、癌細胞を免疫系が癌と認識するには癌に特有な抗原(癌抗原)が必要ですので、癌抗原の量が多ければ多いほど免疫細胞に癌細胞は捕捉されやすくなり、実際癌抗原の量が多い癌では、免疫チェックポイント阻害剤の効果も高まります。ただし残念ながら、やはりこれだけでは治療予測は困難です。他にも様々なバイオマーカーが研究されていますが、治療予測を立てるだけの信頼性のあるものはありませんでした。

 

癌細胞を免疫細胞が攻撃して排除するためには、癌に存在する異常なタンパク質=癌抗原を、免疫細胞が認識する必要があります。癌抗原やウイルス抗原のように細胞の内部にある抗原を免疫細胞に見せるための装置をヒトの体にある全ての細胞は持っていて、この装置はMHCクラスIとして知られています。このMHCクラスIの装置を構成する部品に当たる多くの分子を細胞内で発現させるのに必要な遺伝子がNLRC5という免疫系の遺伝子です。研究グループは以前、癌患者の多くがNLRC5の機能や発現を失うことによって、MHCクラスIの発現が低下し、癌に対する免疫応答が低下していることを発見しました。そこで、NLRC5に注目し、皮膚癌の患者における治療効果を解析しました。治療開始時にNLRC5の発現が高い皮膚癌の患者グループでは抗CTLA-4阻害剤に対する効果が高い頻度で見られたのに対し、NLRC5の発現が低い患者グループでは治療効果が低くなることがわかりました。さらに、NLRC5の発現をバイオマーカーとして、今までに報告されてきたバイオマーカー、例えばPD-L2の発現や癌抗原量などと組み合わせると、さらにはっきりと治療効果がある患者群と効果がない患者群に分けることが可能になることがわかりました。NLRC5の発現を他のバイオマーカーと組み合わせる手法は、治療効果予測に対してだけではなく、癌患者の予後=5年生存率の予測にも効果的である事がわかりました。さらに、同様の手法を抗PD-1阻害剤による治療を受けた患者群でも用いた結果、抗CTLA-4阻害剤による治療と同様に、NLRC5の発現が治療予測及び予後の予測のためになるバイオマーカーとなる事がわかりました。

​プレスリリースの内容はこちら。論文はScientific Reportsに掲載されました。

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