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私達は、細菌やウイルスなどの病原体が免疫機構によってどのように検出されるか、そしてそれらの病原体から体を守るためにどのような免疫応答反応が起きるかについて研究を行っています。これらの免疫応答反応は、病原体によって引き起こされる感染症を防ぐために重要なものですが、行きすぎた免疫反応は様々な炎症性疾患の原因にもなっています。

人の免疫機構は大きく分けて自然免疫反応とかくとく免疫反応の2つに分類されます。自然免疫は病原体を最初に発見し体を防御する、いわば最初の砦です。自然免疫の特徴はその発動の速さにありますが、これだけでは効果的に多くの病原体から体を守ることはできません。獲得免疫は、発動には時間がかかりますが、個々の細菌やウイルスの種類に応じて効果的な防御反応を引き起こすことができます。はしかウイルスに感染した人が再び感染することがないのも、ワクチンが効くのも、獲得免疫のお陰です。獲得免疫の発動には自然免疫が必要なことがわかっています。しかしながら、自然免疫や獲得免疫は強ければ強いほどよいというものでもありません。自然免疫と獲得免疫は普段、体に害を及ぼさないよう上手く調節されていますが、この調節がうまくいかない場合、炎症性疾患や自己免疫疾患といった病気の原因になります。

研究内容

左:ヒトの大腸上皮細胞。写真提供:Dr. Cecile Chalouni。発表論文についてはNature Cell Biology 6, 1069(2004)を参照。
左から2番目:写真提供:Dr. Ayano Satoh。発表論文についてはScience (2005)307(5712):1095を参照。

右から2番目:腸上皮に存在するサルモネラ菌。写真提供:Dr. Jorge Galan。発表論文についてはCell 110, 191-202を参照。
右:回腸末端部にある小腸隠窩部。発表論文についてはScience 307, 731-4を参照。

Toll様受容体(TLR)

ヒトの細胞表面にあるToll様受容体(TLR)は細菌やウイルスなどの病原体を認識する受容体です。TLRにより、ヒトの免疫系は病原体の存在を発見することが出来、必要な自然免疫応答反応を引き起こして病原体を取り除こうとします。過剰な自然免疫反応は炎症を引き起こして返って病気にしてしまうため、ヒトのTLRのシグナルは、適切なレベルに留めておけるよう、調節機構というものが存在します。このTLRシグナルの調節機構の分子メカニズムの解明や病態形成におけるTLRシグナルの役割の解明が我々の研究目標の一つです。私たちは、これまでの研究でTLRシグナルの調節機構が感染症や様々な炎症性疾患において重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

Toll様受容体(TLR)は、ウイルスや細菌などの病原体を検出する受容体です。TLRが微生物を認識すると、多様な免疫応答遺伝子を誘導するシグナルカスケードが活性化されます。

クローン病患者の腸

小腸(回腸)にあるパネート細胞。この細胞は、抗菌性物質を分泌することにより腸内細菌をコントロールしています。写真はパネート細胞を含むマウスの回腸。

MHCクラスI転写活性化因子(CITA)の発見

主要組織適合遺伝子複合体(MHC:ヒトではヒト白血球抗原[HLA])は近代医学の歴史の中で最も重要な遺伝子であり、この分野の研究では3回のノーベル賞を受賞しています。MHC遺伝子は、感染症、癌、炎症性疾患や移植医療においてとても重要な役割を果たしています。

MHCクラスI分子とクラスII分子はCD8+、CD4+T細胞への抗原提示に必要不可欠です。CIITA (MHCクラスII転写因子)は長い間研究されていましたが、MHCクラスIの発現メカニズムについては、我々がNLRC5/CITA (PNAS 2010 107:13794)を発見するまで、不明のままでした。CIITAはMHCクラスIIやインパリアント鎖等その関連遺伝子の発現を強く誘導できますが、もう一つのNLRタンパクファミリーであるNLRC5は古典的(HLA-A, B, C)・非古典的(HLA-E, F, G) MHCクラスI遺伝子のプロモーターを特異的に活性化し、発現を誘導することができます。さらにNLRC5はβ2ミクログロブリンやTAP1、LMP2といったMHCクラスI経路に関連した遺伝子の発現を誘導することができます。従って、NLRC5/CITAとCIITAはそれぞれMHCクラスI、クラスIIの経路の遺伝子の協調した発現を調節します(Microbes Infect 2012 189:516Nat Rev Immunol 2012 12:813-20参照)。我々は、NLRC5遺伝子が不足しているマウスでMHCクラスI分子が大範囲で損なわれていることを見つけ、その結果CD8T細胞の細胞応答が低いことを発見しました(J Immunol 2012 189:516)。さらに、NLRC5が他の転写因子と協調することで、細胞内で核へ移行し、MHCクラスI遺伝子のプロモーターを活性化させることを発見しました(BBRC 2012 418:786, Immunol 2012 188:4951)。

自然免疫機構は、ウイルスや微生物などの病原体を直接認識します。自然免疫の活性化はリンパ球による抗原特異的な免疫応答(獲得免疫)を引き起こします。

NLR蛋白

病原体に対する生体防御に関し、重要な役割を持つもう一つの遺伝子ファミリーがNLRファミリーです。この細胞質蛋白ファミリーには、2つのモチーフ:ヌクレオチド結合ドメイン(NBD又はNOD)とロイシンリッチリピート(LRRs)を持つという特徴があります。NLRsは多様な蛋白ファミリーに属しています。我々の取り組みは、NLRの感染症における意義のように病原体の検出機構や下流シグナル伝達経路におけるこの蛋白ファミリーの機能メカニズムを明らかにすることに着目しています。

多くのNLRsは細胞内(細胞質)にあり、細菌や、細菌の産生物を検出します。NLRsの活性化はサイトカイン産生や炎症反応を惹き起こします。

NOD2: クローン病の主要な危険因子

クローン病は腸に発生する慢性的な炎症性疾患です。NOD2及びNLR蛋白ファミリーは、細菌の細胞壁成分に対するセンサーとして働きます。小腸(回腸)におけるNOD2の変異はクローン病の強力な遺伝的危険因子です。NOD2は回腸パネート細胞で多く発現し、抗菌性物質を産生します。腸での細菌に対する生体防御におけるNOD2の役割を発見したのは、我々のグループが初めてでした(Science 2005 307:731)。更に我々は、NOD2がパネート細胞の細菌活性に非常に重要であることを発見しました(PNAS 2009 106:15813)。実際にマウスを使用し、NOD2遺伝子欠損マウスでは回腸で細菌が増殖していることを証明しました(PNAS 2009 106:15813)。これらの所見により、NOD2変異マウスを使用した全く新しいクローン病モデルを作成することが可能となりました。このモデルは実際のクローン病患者に見られる多くの特徴を非常によく再現しており、クローン病の研究及び薬品開発においてとても有力なツールとなっています。

MHCクラスIの発現には、NLRC5/CITA (MHCクラスI転写因子)が必要です。近年の発表論文については、Nature Rev Immunol 12:813-20 (2012)を参照。

癌はどうやってヒトの免疫系から逃れているのか:

NLRC5の機能、発現低下は癌の免疫逃避の原因となります。

臓器移植によって救われる患者は少なくありませんが、HLAの不適合(ヒトのMHC)は、臓器移植の拒絶反応や移植片対宿主病(GVHD)を含む重大な副作用を引き起こす可能性があります。

病原体ウイルスや細胞内に侵入した細胞に対抗するには、MHCクラスI蛋白が必要不可欠です。この写真はもっとも恐ろしいウイルスの一つと言われ、エボラ出血熱を発生させるエボラウイルスです。

癌細胞には細胞増殖を制御できないという特徴があります。免疫システムは、MHCクラスIと細胞障害性T細胞を用いて癌細胞を除去します。

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